他の相続人に預金を使い込まれた場合どうなる(Part1)
「亡くなった家族の預金を、他の相続人に引き出されてしまった」というトラブルは、相続のご相談で特に多く見られます。被相続人の預金が使い込まれてしまったという問題は2つのケースに分けられます。
⑴ 被相続人の生前に、被相続人の預金が使い込まれたケース
⑵ 被相続人の死亡後に、被相続人の預金が使い込まれたケース
本記事ではまず⑴のケースをご説明します。
被相続人の生前に、被相続人の預金が使い込まれたケース
事例 Aさんが生きている間に、Aさんと同居し面倒を見ていたB太郎さんによってAさんのD銀行の預金が引き出された結果、Aさんの死亡時(相続時)に預金残高が減少していた。
*被相続人とは:亡くなられた方(A)のことです。
*相続は死亡した時点で発生します。
預金の引出しをAさんが承諾していた場合
Aさんが自分の財産を自らの意思で処分したに過ぎませんので、法的な問題はありません。
預金の引出しをAさんが承諾していなかった場合
Aさんは預金を引き出したBさんに対し、① 不法行為に基づく損害賠償請求権(民法709条)、または② 不当利得返還請求権(民法703条)を有することになります。
しかし、Aさんは亡くなっているため、Cさんは、相続分(Aさんの相続に対するCさんの持ち分)に応じて、既述の ① 損害賠償請求権 ないし ② 不当利得返還請求権 を、Aさんに無断で預金を引き出したBさんに対して預金の返還を求めることができる、ということになります。
Aさんが承諾していたか否かで結論が大きく異なります
つまり、Aさんが承諾したかどうかを調査すればよいということになります。
しかし、Aさんは既に亡くなっており、Aさんに問い合わせすることはできません。
そのため、「預金の引き出し行為」は「被相続人の承諾があったかどうか」(Aさんの承諾があったのか否か)が激しく争われることになります。
上記のケースでは、相続人のB太郎さんとC子さんの間で争いになります。多くの場合、B太郎さんは、Aさんの承諾があったと主張するでしょうし、C子さんは、Aさんが承諾することはありえないなどと主張することが多いでしょう。
引き出された預金相当額の返還を求める相続人(C子さん)としては、以下のような様々な事情から、被相続人が当該引き出しを了承するはずがないことを、証拠をもとに丁寧に主張していくことになります。
被相続人(A)の当時の意思能力 |
Ex. 認知症があった |
被相続人(A)と相続人(B太郎)の関係性 |
Ex. 同居、仲が良かった、頻繁に連絡 |
出金された金額の多寡や頻度 |
Ex. 〇万円単位、週〇回程度 |
どのような支出に充てられたか |
Ex. 介護費用 |
重要なことは、主張を裏付ける証拠(関係する資料)が存在するのかという点に尽きます。
実務では、預金を引き出した相続人がそもそもその事実(自分が引き出しという行為に関与すらしていないなど)を認めず、遺産分割調停で解決することも拒否した場合には、家庭裁判所における審判で解決することはできません。
このような場合、相続の問題を扱う「家庭裁判所」での解決は困難ですので、上述した①不法行為に基づく損害賠償や②不当利得返還請求を理由として、金銭問題を扱う「地方(簡易)裁判所」に民事訴訟を提起する必要があります。
なお、仮に預金の引き出しが被相続人の意思によるものであっても、それが預金を引き出した相続人のために使われていた場合には、いわゆる特別受益にあたるとして、当該相続人の遺産の取り分を減らすことができる可能性があります。
例えば、Aさん名義の預金が100万円引き出されていたとします。
Aさんは100万円を引き出すことを承諾しており、出金行為をB太郎さんがお手伝いしていたことまでは証拠や資料から判明しましたが、その100万円がAさんのために使われたのではなく、B太郎さんのために費消されたというケースでは、細かい法律上の条件はありますが、「特別受益」といって、B太郎さんは自分の相続の取り分から100万円を先に取得したのと同じであると考え方があります。特別受益が認められると、B太郎さんの取り分は先に貰った分減額されます。
次回は、⑵ 被相続人の死亡後に、被相続人の預金が使い込まれたケースを説明します。